１，雨は夜更け過ぎに．．．

　「これからは、あなたのやりたいことをやって欲しいの」

　街灯の下で、大きな目を伏目にして、彼女は言った。
　今日、ここまで送れば、すべてが終わるということになっていた。
　目と鼻の先に、彼女の家の明かりが見える。

　「さよなら」

　と彼女が言う。
　俺は、背中を向けて、坂道を登り、駅へと向かい始める。

　「さよならー」

　大きな声がする。
　俺は、耳を塞ぎたかった。

　「さよならー」

　彼女が手を口に当てて、叫んでいる。
　俺は振り向けなかった。
　せつないくらいに悲しかった。

　声が聞こえないところまで行けば、そこからまったくの他人になってしまう。

　どちらが悪いというわけでもなく、何かのきっかけでちいさな行き違いができ、それが次第に大きくなっていった。

　もうだめだとわかっていても、二人でいようと努力してきた。
　だが、それも今日で終わる。

　さよなら。
　俺も心でつぶやいた。

　１２月の街は、冷たい風が吹きぬけている。

　俺の乗った電車は、クリスマスイブを一週間後にひかえて山下達郎の「クリスマス　イブ」が鳴り響く街へと、発車した。

２，転職をしよう

　大学を卒業したあと、大都会で営業マンをやっていた俺は、仕事がおもしろくなくてしょうがなかった。

　あー、俺には金儲けなんてしょーにあわねー。
正義の味方になりてーなぁー。

　などと、くだらないことを思ってはいても、踏ん切りはつかず、超高層ビルの上の空、仕事に追いまくられて、届かない夢を見ながら、毎日、弁当を食っていた。

　仕事人間化していたため、休日はいつもへろへろ状態。デートしていても、どこかウワの空。
　それどころか、「たまには一人でのんびり過ごしたいな」などと考えてしまうありさまだった。

　自分を見失っていたのかもしれない。

　そして、そんな俺に愛想をつかしたのか、彼女と、別れることになってしまった。

　「これからは、あなたのやりたいことをやって欲しいの」
　と言った彼女の言葉は、俺自身を取り戻して欲しいと、ずっと言いたくて心の中に溜めていた言葉だったのだろう。

　では、どうすりゃいいのだ。
　俺は、悩んだ。

　そして、
　「転職しよう」
　という結論に、達した。(^^；；

　リセットして、自分探しの旅に出よう。

３，さらば大都会

　「ばかもの〜っ！！今からすぐに会社に謝って、もう一度入れてもらえ！！」
　辞めてからがまた大変だった。
　親父に電話して報告したら、烈火のごとく怒り出し、電話をぶち切られた。

　その後、また電話があり、
　「とりあえず、帰って来い」
　と言われ、就職試験があるまでの間、郷里に引き上げることになった。

　俺は、愛車の２５０ＣＣのバイクをフェリーに乗せ、夜の大都会を出港した。
　デッキに立って、外をみると、イルミネーションに彩られてたタワーがくっきり見えた。

　自分を見つけたら、必ずここに帰ってくる。
　俺は、そっとこぶしに力を込めて、タワーに誓った。

　さらば、大都会、
　しばしの別れだ。
　おやすみ！！！